2025年11月2日、暗号資産市場は重要な岐路に立っています。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁がデジタルユーロを「欧州統一の象徴」と位置づけ、2029年導入を視野に最終準備段階に入ったことを明らかにしました。
一方、米国ではサークルが独自ブロックチェーン「Arc」のテストを開始し、SBIや大手金融機関など100社以上が参加する大規模なプロジェクトが動き出しています。
市場分析では、ビットコインが売られ過ぎ水準に達しているとの指摘があり、来週発表される経済指標次第で利下げ期待が強まる可能性が示されています。
一方、シグマ・キャピタルのCEOは次の弱気局面でビットコインが最大70%下落する可能性を警告し、市場の楽観論に冷や水を浴びせました。
技術面では、量子コンピューターが10年以内にビットコインへの現実的リスクになるとの専門家の見解が示され、長期的なセキュリティ課題が浮上しています。
企業戦略では、ビットコイントレジャリー企業の多くが保有BTCを下回る評価を受けており、mNAV「1」割れからの回復策が焦点となっています。
国内では、日本初のステーブルコインJPYC始動やBybitの日本人新規登録停止が大きな関心を集めました。本稿では、これらの動きを詳細に解説します。
欧州のデジタルユーロ推進 ── 2029年導入目指し最終段階、ラガルド総裁が統一の象徴と強調
欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタルユーロの導入に向けた強い意欲を示しました。
ラガルド総裁は金曜日の発言で、デジタルユーロを「欧州連合(EU)の統一を象徴する存在」として称賛し、「可能な限り早期の導入」を目指すと述べました。
ラガルド総裁の発言は、デジタルユーロが単なる決済手段にとどまらず、欧州の政治的・経済的統合を強化するツールとして位置づけられていることを示しています。
欧州は複数の国家から構成されており、ユーロという共通通貨が統合の象徴となってきましたが、デジタル時代においてはデジタルユーロがその役割を担うというビジョンです。
ECBは現在、2029年の導入を視野に最終準備段階に入っています。
技術的な開発、法的枠組みの整備、そしてプライバシー保護とマネーロンダリング対策のバランスなど、多岐にわたる課題に取り組んでいます。
特にプライバシーの問題は、欧州市民の間で懸念が強く、政府による監視強化につながるのではないかとの批判があります。
ECBはこれらの懸念に対応するため、一定額以下の取引については匿名性を保証する仕組みを検討しています。
現金と同様に、小額の支払いについては個人情報を収集しない設計を目指しており、プライバシーと規制のバランスを重視しています。
デジタルユーロの導入は、民間のステーブルコインや暗号資産への対抗という側面もあります。
米ドル建てのステーブルコインが世界的に普及する中、欧州が独自のデジタル通貨を持たなければ、通貨主権が脅かされるとの危機感があります。
デジタルユーロを導入することで、欧州域内での決済をユーロ建てで行う環境を整備し、米ドルへの依存度を下げる狙いがあります。
ただし、デジタルユーロの導入には技術的・政治的なハードルが残されています。
各国の中央銀行や政府との調整、民間銀行への影響、そして市民の受容性など、解決すべき課題は多岐にわたります。2029年という目標年次が実現できるかは、今後の準備状況次第と言えるでしょう。
サークルの独自チェーン「Arc」始動 ── SBIや大手金融機関など100社以上が参加
米ドル建てステーブルコインUSDCを発行するサークル(Circle)が、決済に特化した独自ブロックチェーン「Arc」のテストを開始しました。
このプロジェクトには、SBIホールディングス、大手金融機関、AI企業など100社以上が参加しており、ステーブルコイン決済インフラの新たな標準を目指しています。
Arcは、既存のブロックチェーンではなく、サークルが独自に開発したレイヤー1ブロックチェーンです。
既存のイーサリアムやソラナなどのブロックチェーン上でUSDCを発行するのではなく、決済に最適化された専用チェーンを構築することで、より高速で低コストな決済環境を実現する狙いがあります。
100社以上の参加企業には、金融機関だけでなく、AI企業も含まれていることが注目されます。
AI技術とブロックチェーン決済の組み合わせは、自動化された決済プロセスや、AIエージェント間の取引など、新しいユースケースを生み出す可能性があります。
SBIホールディングスの参加は、日本企業がグローバルなステーブルコイン決済インフラに積極的に関与していることを示しています。
SBIは国内でも暗号資産事業を展開しており、Arcを通じて国際決済とのシームレスな接続を目指していると見られます。
サークルがArcを独自に開発する背景には、既存のブロックチェーンでは決済に求められる要件を完全には満たせないという判断があります。
既存のチェーンは、DeFiやNFTなど多様な用途に対応するため、決済専用に最適化されていません。Arcは決済に特化することで、速度、コスト、信頼性を最大化する設計となっています。
テスト段階では、参加企業が実際の決済シナリオを試し、技術的な問題や運用上の課題を洗い出す作業が行われます。
正式なローンチ時期は明らかにされていませんが、テストが順調に進めば2026年中の本格稼働も視野に入ります。
市場分析 ── ビットコインは売られ過ぎ、来週の経済指標が鍵、一方で70%下落警告も
ビットコイン市場は重要な局面を迎えています。
bitbankのアナリストによると、ビットコインは現在売られ過ぎ水準にあり、逆三尊を形成中とのことです。
テクニカル分析では、来週発表されるISM統計で景気減速が確認されれば、12月の利下げ期待が強まり、11.6万ドルのネックライン到達も視野に入るとしています。
逆三尊は、底値圏で形成される強気のチャートパターンであり、3つの谷を形成した後、ネックラインを上抜けると上昇トレンドに転換するとされています。
現在のビットコインは、このパターンの途中にあり、ギリギリの水準で推移しているとの見方です。
来週発表されるISM製造業景況指数やサービス業景況指数は、米国経済の現状を示す重要な指標です。
これらの数値が市場予想を下回り、景気減速が確認されれば、FRBが12月のFOMC会合で追加利下げを実施する期待が高まります。
利下げはリスク資産にとって追い風となるため、ビットコイン価格の上昇につながる可能性があります。
一方で、今週の主要仮想通貨材料をまとめた記事では、フランスのビットコイン戦略的備蓄法案提出やソラナETFの米上場など、前週比での主要銘柄の騰落率や注目材料が紹介されています。
市場全体としては、国家レベルでのビットコイン採用の動きが継続しており、長期的には強気要因となっています。
しかし、楽観論一辺倒ではありません。ベンチャー企業シグマ・キャピタルのヴィニート・ブドキCEOは、ビットコインが今後も周期的なバブルと暴落を繰り返し、次の弱気局面では最大70%の下落幅を記録する可能性があると警告しています。
ブドキCEOの見解は、ビットコインの4年サイクルに基づいています。過去のデータでは、ビットコインは半減期を起点として、約4年ごとに強気相場と弱気相場を繰り返してきました。
強気相場では数倍から数十倍に上昇する一方、弱気相場では前回の高値から70〜80%程度下落するのが典型的なパターンです。
現在のビットコイン価格が11万ドル台であることを考えると、70%下落すれば3万ドル台まで下がる計算になります。
これは極端なシナリオに思えますが、過去のサイクルでは実際にこの程度の下落が発生しています。
ブドキCEOの警告は、現在の高値水準で新規参入する投資家に対する注意喚起でもあります。
ビットコインは長期的には上昇トレンドにあるものの、短中期的には大きな変動を伴うため、適切なリスク管理が必要です。
ビットコイントレジャリー企業の苦境 ── mNAV「1」割れ、保有BTCを下回る評価
ビットコイン保有を財務戦略の中核とする企業(ビットコイントレジャリー企業)の多くが、株価の低迷に苦しんでいます。
現在、多くの企業が時価総額で保有するビットコインの純資産価値を下回る評価を受けており、mNAV(修正純資産価値比率)が「1」を割り込んでいます。
mNAVとは、企業の時価総額を保有するビットコインの時価で割った値です。
mNAVが1を上回れば、企業は保有ビットコイン以上の価値を市場から認められていることになり、1を下回れば保有ビットコイン以下の評価を受けていることになります。
mNAVが1を割り込む理由はいくつかあります。
第一に、ビットコイン価格の下落です。企業が高値でビットコインを購入した場合、価格が下落すれば含み損を抱え、株価も連動して下落します。
第二に、市場の信頼性低下です。ビットコイン戦略が長期的に成功するのか疑問視されれば、投資家は株式を売却し、株価が下落します。
mNAV「1」割れからの回復策としては、自社株買いが有効です。株式数を減らすことで、1株あたりの純資産価値が上昇し、mNAVが改善します。
実際、メタプラネットなど一部の企業は自社株買いを実施しており、mNAV改善を図っています。
もう一つの方策は、ビットコイン以外の収益源を確保することです。ビットコイン保有だけでは、価格変動に左右されるため、本業での収益を確保することで、企業価値を安定させることができます。
ビットコイントレジャリー企業の苦境は、ビットコイン財務戦略のリスクを浮き彫りにしています。
長期的にはビットコイン価格の上昇が期待されますが、短中期的には大きな変動に耐えうる財務体質が求められます。
量子コンピューターの脅威 ── 10年以内にビットコインへの現実的リスクに
量子コンピューターがビットコインのセキュリティに脅威をもたらす可能性が、専門家によって指摘されています。
ベンチャーキャピタル企業ボーダーレス・キャピタルのパートナー、アミット・メーラ氏は、量子コンピューティングはまだ「黎明期」にあるものの、近い将来ビットコインや他のプルーフ・オブ・ワーク(PoW)アルゴリズムに脅威をもたらす可能性があると述べています。
量子コンピューターは、従来のコンピューターでは解けない複雑な計算を高速で処理できます。
ビットコインのセキュリティは、楕円曲線暗号(ECDSA)という暗号技術に依存しており、現在のコンピューターでは解読に膨大な時間がかかるため安全とされています。
しかし、十分に強力な量子コンピューターが登場すれば、この暗号を短時間で解読できる可能性があります。
メーラ氏は、10年以内に量子コンピューターがビットコインへの現実的リスクになると予測しています。
これは決して遠い未来の話ではなく、ビットコインコミュニティが対策を講じる必要がある時期に来ていることを意味します。
対策としては、量子耐性暗号への移行が考えられます。
これは、量子コンピューターでも解読が困難な新しい暗号技術であり、既に研究が進んでいます。ビットコインプロトコルをアップグレードして、量子耐性暗号を採用すれば、将来的なリスクを回避できます。
ただし、プロトコルのアップグレードにはコミュニティ全体の合意が必要であり、技術的にも複雑な作業となります。量子コンピューターの脅威が現実化する前に、計画的に対応を進めることが重要です。
国内動向 ── JPYC始動、Bybit新規登録停止、SBIのXRP株主優待が関心集める
国内市場では、今週も重要な動きが相次ぎました。
日本初のステーブルコインJPYCの本格始動は、国内での円建てステーブルコイン実用化の第一歩として大きな関心を集めています。
また、SBIインシュアランスグループが株主優待に仮想通貨XRPを導入したことも注目されました。これは企業が暗号資産を株主還元の手段として活用する新しい事例であり、今後他の企業も追随する可能性があります。
一方、仮想通貨取引所Bybitが日本人の新規登録を停止したことは、規制対応の難しさを示しています。海外取引所が日本市場で事業を継続するには、金融庁への登録と厳格なコンプライアンス体制が求められます。
おわりに
2025年11月2日は、暗号資産市場が制度化と技術的課題の両面で重要な局面を迎えていることを示す一日となりました。
欧州のデジタルユーロ推進は、国家がデジタル通貨を統一の象徴として活用する時代の到来を予感させます。サークルのArcプロジェクトは、民間企業が独自の決済インフラを構築する動きを象徴しています。
市場分析では、短期的な売られ過ぎと長期的な70%下落リスクという相反する見方が示されました。
これは、ビットコイン市場が依然として大きな変動を伴う成長過程にあることを示しています。ビットコイントレジャリー企業の苦境は、財務戦略としてのビットコイン保有のリスクを浮き彫りにしました。
量子コンピューターの脅威は、10年以内に対応が必要な現実的課題として認識されつつあります。技術革新がもたらす利便性と同時に、セキュリティリスクへの対応も求められています。
国内では、JPYCの始動やSBIのXRP株主優待など、実用化が着実に進展しています。
一方、Bybitの新規登録停止は、規制環境への適応の難しさを示しました。暗号資産市場は、制度化、実用化、技術的課題への対応という複数の課題に同時に取り組む時代に入っています。
