2025年10月29日、暗号資産市場は制度化の新たな段階に突入しました。この日に報じられた一連のニュースは、伝統的金融機関の本格参入が加速していることを明確に示しています。
最も注目すべきは、決済大手ビザ(Visa)が4種類のステーブルコインへの対応拡大を発表したことです。複数のブロックチェーン上で25以上の法定通貨に変換できる決済網を構築し、グローバルな決済インフラとしての地位を確立しようとしています。さらに、サークルが独自のレイヤー1ブロックチェーン「Arc」のテストネットを開始し、ブラックロックやビザを含む100社超が参加するなど、大手企業による暗号資産インフラ構築の動きが顕著です。
国内でも重要な動きがありました。SBIインシュアランスグループが株主優待に仮想通貨XRPを導入し、企業による暗号資産の実用化が新たな局面を迎えています。また、平将明議員が自民党のサイバーセキュリティ本部長とWeb3小委員会委員長に就任し、政策面でも継続的な支援が期待されます。
企業戦略では、メタプラネットが750億円規模の自社株買いを発動し、ビットコイン担保による資金調達の新たなモデルを示しました。一方、世界最大のビットコイン保有企業ストラテジーがS&P500採用の可能性70%と予測されるなど、暗号資産を中核とする企業が主流市場に受け入れられつつあります。
本稿では、これらの動きを整理し、暗号資産市場の動向と今後の方向性を詳細に解説します。
決済インフラの革命 | ビザとサークルが描く新時代の金融システム
暗号資産市場における最も重要な進展は、伝統的な決済インフラ企業による本格参入です。10月29日、決済大手ビザが複数のステーブルコインへの対応拡大を発表しました。同社は4つのブロックチェーン上で4種類のステーブルコインをサポートし、25以上の法定通貨に変換できる決済網を構築する計画です。
この発表は、ビザが暗号資産を単なる実験的技術ではなく、グローバルな決済インフラの中核的要素として位置づけていることを明確に示しています。複数のブロックチェーンに対応することで、ユーザーは自身が利用するチェーンを選択でき、決済の柔軟性が飛躍的に向上します。25以上の法定通貨への変換機能により、国際送金や越境決済における障壁が大幅に低下することが期待されます。
並行して、ステーブルコイン大手のサークルが独自のレイヤー1ブロックチェーン「Arc」のテストネットを開始しました。この動きで特筆すべきは、ブラックロック、ビザを含む100社超が参加している点です。ブラックロックは世界最大の資産運用会社であり、その参加は機関投資家の暗号資産への関心の高さを示しています。
サークルのArcは、USDCを活用した次世代金融インフラの構築を目指しています。現在、ステーブルコイン市場は3000億ドル規模に成長しており、その中核を担うUSDCを基盤とした独自ブロックチェーンの展開は、ステーブルコイン経済圏の拡大を加速させる可能性があります。
さらに注目すべきは、韓国のウォン連動型ステーブルコインKRW1がサークルの新ブロックチェーンArc上で展開される計画です。釜山を拠点とする仮想通貨カストディ企業BDACSが発行するこのステーブルコインは、地域通貨をブロックチェーン上で展開する新たなモデルとなります。米ドル以外の法定通貨連動型ステーブルコインが大手プラットフォーム上で展開されることは、ステーブルコインの多様化を示す重要な動きです。
送金市場でも革新が起きています。国際送金大手のウエスタンユニオンが、次世代のステーブルコイン決済システムにソラナ・ブロックチェーンを採用すると発表しました。同社は2026年前半にローンチ予定としており、年間数千億ドル規模の国際送金市場に暗号資産技術が本格導入されることになります。ウエスタンユニオンは世界中に送金ネットワークを持つ老舗企業であり、その採用は暗号資産決済の実用性が認められた証と言えます。
金融機関の動きも活発です。DBSとゴールドマン・サックスが、銀行間としては初の店頭取引(OTC)による暗号資産オプション取引を実行しました。この取引は、機関投資家向けの暗号資産デリバティブ市場が成熟しつつあることを示しています。店頭取引は大口取引に適しており、機関投資家が暗号資産をヘッジや投資戦略に活用する道が開かれました。
国内でも注目すべき動きがあります。DeFiプラットフォームのSecured FinanceがJPYCを活用したプロダクト群を発表しました。日本円建てステーブルコインを活用することで、「金利のインバウンド」という新しいコンセプトが提唱されています。金利の低い日本円を求めて世界中から投資家が集まる可能性があり、これは観光地を訪れるインバウンドの資金版と言えます。
これらの動きは、決済インフラの根本的な変革が進行していることを示しています。ビザやウエスタンユニオンといった伝統的企業がステーブルコインを採用し、サークルが独自ブロックチェーンを展開することで、暗号資産は実験的技術から実用的インフラへと進化しています。今後、これらのインフラがどれだけ実際に利用されるかが焦点となります。
ETF市場の新展開 | ソラナETFの衝撃と資金流入の構造変化
暗号資産ETF市場が新たな段階に突入しています。10月29日、グレースケールのソラナETF(GSOL)がNYSE Arcaで取引を開始しました。前日に上場したビットワイズのソラナ・ステーキングETFは初日に5600万ドルの出来高を記録し、2025年上場の仮想通貨ETF中で最大となりました。
ビットワイズのソラナETFに関しては、より詳細なデータも報じられています。同ETFは初日に2億2,300万ドルでデビューし、大規模な資金流入により、米国でのステーキング型仮想通貨ETFに対する需要を試す試金石となりました。ステーキング機能を持つETFは、保有者が単に価格上昇を期待するだけでなく、ステーキング報酬を得られるという付加価値があり、投資家にとって魅力的です。
市場の期待も高まっています。アナリストによると、ソラナETFがビットコインやイーサリアムETFと同じ動きが繰り返されれば30億ドル超の資金流入の可能性があるとされています。ビットコインETFは上場時に大規模な資金流入を記録し、市場を大きく動かしました。ソラナETFも同様の軌道を辿る可能性があり、アルトコインETF市場の拡大が期待されています。
スイスでも動きがありました。欧州拠点の大手暗号資産運用会社コインシェアーズが、テレグラムと連携するトンコイン(TON)への投資エクスポージャーを提供する新しいETP(上場投資商品)を発表しました。これはビットコイン、イーサリアム、ソラナに続く、新たなアルトコインETFの波を示しています。
先物市場も活況です。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場しているXRPおよびソラナ先物は、10月27日に建玉が過去最高を記録しました。これは規制された商品への需要が高まっていることを示しており、機関投資家が暗号資産デリバティブを積極的に活用していることが分かります。
しかし、資金流入には重要な構造的問題も指摘されています。K33リサーチのアナリストが、米国のビットコイン現物ETFの年初来流入がブラックロックのIBITに集中していると指摘しました。ブラックロックを除外すると、年初来でマイナスフローになるという分析は、ブラックロックの役割の大きさを示しています。
この分析は、アルトコインETFにも波及します。アルトコインETF承認が待望される中、ブラックロックが関与しない限り、投資家が期待するほどの大規模な資金流入は起こらない可能性があるとの指摘がなされています。ブラックロックは世界最大の資産運用会社であり、その参入が市場に与える影響は絶大です。同社が関与しないアルトコインETFは、期待ほどの資金を集められない可能性があります。
それでも、ソラナETFの初日の成功は明るい兆候です。5600万ドルという出来高は、ブラックロック不在でも一定の需要があることを示しています。今後、他のアルトコインETFが相次いで上場する中で、どの銘柄がブラックロック抜きでも資金を集められるかが注目されます。
ETF市場の拡大は、機関投資家の暗号資産へのアクセスを容易にするという重要な役割を果たしています。従来、暗号資産への投資にはウォレットや取引所の口座開設という技術的ハードルがありました。ETFという伝統的な金融商品の形態で暗号資産にアクセスできることで、より多くの機関投資家や個人投資家が参入しやすくなります。
ソラナETFの成功は、ビットコインとイーサリアム以外のアルトコインも、機関投資家の投資対象として認知され始めていることを示しています。今後、XRP、カルダノ、ポルカドットなど、他の主要アルトコインのETFも承認される可能性があり、2025年から2026年にかけてアルトコインETFラッシュが到来する可能性があります。
企業戦略の多様化 | メタプラネットの攻勢とストラテジーの新評価
企業のビットコイン戦略が新たな段階を迎えています。国内企業のメタプラネットは10月28日、最大750億円規模の自己株式取得枠(自社株買い)を設定したと発表しました。取得し得る株式の総数は最大1億5000万株で、発行済株式総数の13.13%に相当します。
メタプラネットの戦略の特徴は、ビットコインを担保とした資金調達です。同社は最大5億ドル(約750億円)のビットコイン担保付きクレジットファシリティを確保しました。この資金を活用して自社株買いを実行することで、株価がmNAV(修正純資産価値)を下回る局面で資本効率の改善と株主還元を図ります。
メタプラネットの株価は長年「過小評価」されていると指摘されてきました。同社の保有するビットコインの価値に対して、株価が割安な状態が続いていたのです。今回の自社株買いにより、この「割安」状態から脱却する可能性が高まっています。自社株買いは発行済株式数を減少させるため、一株あたりの価値が高まり、株価上昇につながることが期待されます。
さらに注目すべきは、メタプラネットが2025年12月22日に臨時株主総会を開催することを発表したことです。この総会で議決権を行使するためには10月31日の基準日時点において株主名簿に記載されている必要があり、議決権獲得の期限が迫っています。この株主総会では、今後の経営方針や資本政策について重要な決議が行われる可能性があります。
一方、世界最大のビットコイン保有企業であるストラテジーに対する評価が分かれています。仮想通貨市場調査会社10Xリサーチによれば、ストラテジーが年内にS&P500指数へ採用される確率が70%あるとされています。これは、株価下落やビットコイン購入の減速にもかかわらず、主流市場に受け入れられつつあることを示しています。
しかし、格付け会社の評価は厳しいものでした。S&Pグローバル・レーティングがストラテジーに対し「B−」の信用格付けを付与しました。これはいわゆる「ジャンク債」レベルであり、ビットコイン偏重の事業構造が懸念されています。S&Pがビットコインを主要資産とするビジネスモデルの企業に格付けを行ったのはこれが初めてであり、メタプラネット社の試金石となる可能性があります。
この格付けは、ビットコインを中核とする企業のリスクプロファイルが高いと評価されたことを意味します。ビットコインの価格変動が激しいため、企業の財務状況も大きく変動する可能性があるという懸念です。しかし、一方でS&P500採用の可能性が70%という予測もあり、市場の評価が分かれている状況です。
XRP関連では、リップル社およびSBIホールディングスなどが支援するエバーノース・ホールディングスが、すでに154億円相当のXRPを保有していることが明らかになりました。オンチェーンデータによると、同社は約3.89億XRPを購入し、投資額は9.47億ドルに達したとされています。既に5000万ドル以上の含み益を得ており、短期間での大きな利益を実現しています。
エバーノースはナスダック上場のXRP運用ファンドの立ち上げが目前とされています。同社は3億8,870万XRPを蓄積しており、これはXRPの総供給量の約0.4%に相当します。機関投資家向けのXRP投資ファンドが上場されれば、XRPへの機関投資家の参入が加速する可能性があります。
イーサリアム戦略では、ファンドストラットのトム・リー氏が率いるビットマインが約173億円相当のイーサリアムを新規購入したと報告されています。Lookonchainの報告によると、同社の保有額は2兆円を超え、世界最大のETH保有企業として総供給量の2.8%を保有しています。さらに、同社の株式の流動性も米国46位にランクインしており、機関投資家が取引しやすい環境が整いつつあります。
これらの動きは、企業のビットコイン・暗号資産戦略が多様化していることを示しています。メタプラネットは担保融資と自社株買いという柔軟な資本政策を展開し、エバーノースはXRPに特化した戦略を採用し、ビットマインはイーサリアムを中心に据えています。各企業が独自の戦略を展開することで、暗号資産市場全体の成熟度が高まっています。
株主還元の新形態 | SBIがXRP優待を導入、トランプ企業はWLFI配布
企業が暗号資産を活用した新しい株主還元策を打ち出しています。最も注目されるのは、SBIインシュアランスグループが株主優待に仮想通貨XRPを導入すると発表したことです。100株以上の保有で最大1.2万円相当のXRPを進呈する計画で、暗号資産優待の導入が国内でも広がりを見せています。
この動きは、企業が暗号資産を実用的な経済活動の一部として活用し始めていることを示しています。従来の株主優待は自社製品や商品券などが一般的でしたが、暗号資産という新しい選択肢が加わることで、株主還元の形態が多様化します。SBIグループはリップル社との関係が深く、XRPの普及に積極的であることから、今回の優待導入は自然な流れと言えます。
XRPを株主優待として受け取ることで、株主は暗号資産の保有と価格上昇の恩恵を受ける機会を得ます。また、XRPは国際送金などに活用できるため、実用性のある資産としての側面もあります。今後、他の企業も同様の取り組みを行う可能性があり、暗号資産を活用した株主還元が一般化する可能性があります。
海外では、トランプ大統領一族が関与する企業の動きが注目されています。ワールド・リバティ・ファイナンシャル(WLFI)が、ステーブルコインUSD1のロイヤルティプログラム初期参加者に対し、総額約120万ドル相当の約840万WLFIトークンをエアドロップする計画を発表しました。
この配布は、USD1の採用促進に貢献したユーザーに報いるためのものです。提携取引所を通じて合計840万WLFIトークンが配られる予定で、初期ユーザーへの報酬として1.8億円相当のトークンが配布されることになります。
ワールド・リバティ・ファイナンシャルは、トランプ大統領が共同設立した企業であり、その動向は政治的にも注目されています。ステーブルコインUSD1の普及に向けて、積極的なインセンティブ設計を行っていることが分かります。初期ユーザーに大規模な報酬を提供することで、プラットフォームの利用者基盤を拡大する戦略です。
エアドロップやトークン配布に関しては、他のプロジェクトでも動きがあります。大手ウォレットのメタマスク(MetaMask)が報酬プログラムのシーズン1を開始し、ユーザーへの還元を強化しています。また、Monadがエアドロップ対象者を発表するなど、10月29日は複数の大型プロジェクトがエアドロップ関連の発表を行いました。
これらの動きは、暗号資産プロジェクトがユーザーの獲得と維持のために、積極的なインセンティブ設計を行っていることを示しています。エアドロップは新規ユーザーの参入障壁を下げ、既存ユーザーのロイヤリティを高める効果があります。
SBIのXRP優待とワールド・リバティのWLFI配布は、企業が暗号資産を株主やユーザーへの還元手段として活用し始めているという点で共通しています。これは暗号資産が単なる投機対象ではなく、実用的な経済活動の一部として機能し始めていることを示す重要なシグナルです。
国内政策とインフラ整備 | 平将明議員の続投と万博ウォレットの成功
国内の暗号資産政策とインフラ整備において、重要な進展がありました。まず政策面では、石破前政権でデジタル大臣を務めた平将明氏が、自民党のサイバーセキュリティ本部長とWeb3小委員会委員長に就任しました。平氏は暗号資産税制改革のホワイトペーパーを取りまとめた実績を持ち、党内で政策立案の中枢を担うことになります。
平氏の続投は、日本の暗号資産・Web3政策が継続性を持って推進されることを意味します。政権交代に伴い政策が大きく変わることが懸念されていましたが、平氏が引き続き中核的な役割を担うことで、既存の政策路線が維持される見通しです。
税制面でも動きがあります。JVCEAと金融庁が2025年に提出した仮想通貨税制の最新要望について、Aerial Partnersが詳細な解説を行いました。ETF導入、申告分離課税、株式等同等扱いの3つの改正シナリオが提示されており、今後の制度変更に向けて準備すべきことが整理されています。
この税制要望は、暗号資産投資家の税負担を軽減し、投資環境を改善することを目的としています。現在、暗号資産の利益は雑所得として総合課税の対象であり、最高税率は約55%に達します。これを株式等と同様の申告分離課税(約20%)にすることで、投資家の税負担が大幅に軽減されます。
インフラ面では、大阪・関西万博で提供された「EXPO2025デジタルウォレット」が約100万ダウンロードを達成しました。会期中に累計590万件の取引を処理し、大規模イベントでの暗号資産ウォレットの実用性が証明されました。
このウォレットは10月31日より「HashPort Wallet」へリニューアルし、マルチチェーン対応やDEX機能を搭載します。万博という限定的なイベントで培われた技術とユーザー基盤が、汎用的なウォレットとして展開されることで、国内の暗号資産インフラがさらに充実します。
ブロックチェーン技術の面では、ゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」が、イーサリアムとのブリッジに対応しました。異なるチェーン間での資産移動が可能になり、分散型取引所での交換も開始しました。OasysはIPトークン化への展開を加速しており、ゲーム業界とブロックチェーン技術の融合が進んでいます。
エンターテインメント分野では、Kyuzanがセガの人気IP『甲虫王者ムシキング』のブロックチェーンゲームを開発しています。MUSHIトークンを活用した期間限定カードバトルとして10月下旬にリリース予定で、約90種類のムシカードが登場します。有名IPのブロックチェーンゲーム化は、一般ユーザーへの認知度向上に貢献します。
企業向けインフラでは、TISとAva Labsがマルチトークンプラットフォームを提供開始しました。アバランチ基盤で企業のトークン発行を支援するこのプラットフォームは、ステーブルコインやセキュリティトークンに対応しています。企業が独自のトークンを発行する環境が整いつつあり、資産のトークン化が加速する見通しです。
税務面では、暗号資産の自動損益計算サービス「クリプタクト」が、日本円建ステーブルコイン「JPYC」の損益計算に対応しました。JPYCは日本初の円建てステーブルコインとして正式発行されたばかりであり、早期の対応は投資家の利便性を高めます。
これらの動きは、日本国内で暗号資産のエコシステムが着実に整備されていることを示しています。政策の継続性、税制改革への取り組み、インフラの充実、企業向けサービスの拡大など、多層的な発展が同時進行しています。
