2025年10月28日、暗号資産市場は新たな転換点を迎えています。伝統的金融機関の本格参入、企業のビットコイン戦略の進化、ステーブルコイン市場の拡大、そしてETF市場の多様化など、制度化と実用化が同時進行する歴史的な局面となっています。
特に注目されるのは、シティグループやIBMといった世界的企業が暗号資産インフラの構築に本格的に乗り出したことです。これは暗号資産が単なる投機対象から、金融システムの重要な構成要素へと進化しつつあることを明確に示しています。
一方で、市場環境も大きく変化しています。金価格の急落とビットコインの堅調な推移は、安全資産としての主役交代を示唆しており、米中貿易協議の進展やFOMCでの利下げ期待が相場を後押ししています。
国内でも日本初の円建てステーブルコインJPYCの正式発行や、メタプラネットの750億円規模の自社株買いなど、重要な動きが相次いでいます。
本稿では、10月28日時点での暗号資産市場の現状と今後の展望を包括的に解説します。
金融機関の暗号資産参入が本格化 − 伝統金融とWeb3の融合が加速
暗号資産市場における伝統的金融機関の参入が新たな局面を迎えています。10月28日、米大手銀行シティグループがコインベースと提携し、ステーブルコイン決済の導入を検討していることが明らかになりました。シティは2030年までにステーブルコイン市場が4兆ドル規模に達すると予測しており、決済実証を開始しています。この動きはウォール街で仮想通貨の受容が広がりつつあることを示す重要なシグナルです。
コインベースはシティに加えて、資産運用大手のアポロとも戦略的提携を発表しました。アポロとはステーブルコイン活用の信用投資戦略を共同開発する計画で、24時間365日対応の仮想通貨決済機能の実現を目指しています。これにより、従来の金融システムでは不可能だった即時決済や国際送金の効率化が期待されます。
テクノロジー分野でも大きな動きがありました。IBMが機関投資家向けに「Digital Asset Haven」というデジタル資産管理プラットフォームを発表しました。このプラットフォームはマルチチェーン対応のウォレット管理、柔軟な鍵管理モデル、機密コンピューティングによる高度なセキュリティを提供します。銀行や政府、大企業が複数のブロックチェーン上でデジタル資産を安全に管理できる環境が整備されつつあります。
国内でも注目すべき動きがあります。TISとAva Labsが提携し、AvaCloudベースのトークン発行プラットフォームの提供を開始しました。このプラットフォームはステーブルコインやセキュリティトークンに対応しており、金融機関や企業のアセットトークン化を支援します。前日には日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」が正式発行され、関連銘柄が急騰したことも相まって、国内での暗号資産インフラ整備が加速していることが明確になりました。
これらの動きは、暗号資産が単なる投機対象から、制度的に認知された金融インフラの一部へと進化しつつあることを示しています。特にステーブルコインを活用した決済や融資といった実用的なユースケースが拡大しており、2030年に向けて4兆ドル規模の市場が形成される見通しです。伝統金融とブロックチェーン技術の融合は、今後の金融システムの在り方を根本から変える可能性を秘めています。
企業によるビットコイン戦略の明暗 − メタプラネットの攻勢とストラテジーの減速
企業のビットコイン保有戦略において、対照的な動きが観察されています。国内企業のメタプラネットは10月28日、750億円を上限とする大規模な自己株式取得の方針を決定しました。取得可能な株式総数は1億5,000万株で、発行済株式総数の13.13%に相当します。同社はビットコインを担保に最大5億ドルの資金枠を確保し、株価がmNAV(修正純資産価値)を下回る局面で資本効率の改善と株主還元を狙う戦略を明確にしました。
メタプラネットの新たな「キャピタル・アロケーション・ポリシー」は、同社の中核戦略であるビットコイン・トレジャリー事業を推進し、中長期的な企業価値の最大化を目指すものです。この方針により、同社の株価が長年続いた「割安」状態から脱却する可能性が高まっています。
一方、世界最大のビットコイン保有企業であるストラテジーの購入ペースが大きく落ち込んでいます。マイケル・セイラー氏が率いる同社は先週も778BTCを追加購入しましたが、9月以降は購入ペースが過去最少水準に低下しています。10月中旬の市場急落以降、ビットコインやイーサリアムを保有する上場企業による買い入れがほぼ停止しており、市場の慎重姿勢が鮮明になっています。
興味深いことに、S&Pグローバル・レーティングはストラテジーに「B−」の信用格付けを付与しました。これはいわゆる「ジャンク債」レベルであり、ビットコイン偏重の事業構造が指摘されています。一方でメタプラネットは担保融資という手法を活用することで、より柔軟な資本戦略を展開しようとしています。
トランプ大統領一族が共同創設したアメリカン・ビットコインは1414BTCを追加取得し、総保有量は3865BTCに拡大しました。この発表を受けて株価とTRUMPミームコインも上昇しています。
イーサリアムを中心とした戦略では、ファンドストラットのトム・リー氏が率いるビットマインが7万7055ETHを買い増し、保有資産は140億ドル以上に達しました。しかし、別のETHトレジャリー企業はNAV割れを理由に61億円相当のETHを売却し、自社株買い戻しに転じるなど、企業ごとに戦略が分かれています。
これらの動きは、企業のビットコイン戦略が成熟期を迎えつつあることを示唆しています。市場環境や株価評価に応じて、柔軟な資本配分を行う企業が評価される時代になりつつあります。
市場環境の転換点 − ゴールド急落とビットコインの堅調が示す構造変化
暗号資産市場は重要な転換点を迎えています。安全資産の代表格である金の価格が急落し、ニューヨーク金先物価格は1オンス4000ドルの節目を割り込む場面も見られました。利下げ期待などを背景に史上最高値の更新を続けてきた金市場ですが、過熱感も意識される中、調整局面に入りました。
一方、ビットコインは11万4000ドル前後で堅調に推移しています。スタンダードチャータード銀行の仮想通貨アナリストは、米中貿易協議の改善を背景に、ビットコインが10万ドルを下回らない可能性があると予測しています。デリビット(Deribit)も、米中貿易協定に関する暫定的な合意により、ビットコインに新たな上昇余地が生まれると指摘しています。
市場のセンチメントは明確に改善しています。米国のインフレ率が市場予想を下回ったことで、FRBが利下げに踏み切るとの観測が強まっています。仮想通貨投資企業CoinSharesの報告によると、デジタル資産投資商品全体への先週の資金フローは約1,400億円の純流入となり、ビットコインの投資商品は資金フローがプラスに転じました。
テクニカル面でも強気のシグナルが出ています。ビットコインは11万4000ドルの重要なレジスタンス水準をテストしており、トレーダーの間では上昇継続への強気ムードが広がっています。リップル(XRP)も明確な上昇トレンドを形成しており、10月中旬に底を打って以降、複数の強気なテクニカルサインが確認されています。エバーノースによる10億ドル規模の買い増しや、取引所で進行する供給逼迫などの強気シグナルを背景に、XRPは3ドルまで急騰する可能性があると分析されています。
今週開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)が短期的な方向性を決定づける最大の注目点となります。市場は25ベーシスポイント(bp)の利下げを大方織り込んでいるとみられ、この決定が暗号資産市場にどのような影響を与えるかが焦点です。
供給面でも注目すべき動きがあります。破綻した暗号資産取引所マウントゴックス(Mt. Gox)の債権者に対する弁済期限が2026年10月31日まで1年間延長されることが決定しました。これにより市場で警戒されていた約3万4,700ビットコインの短期的な売却懸念が後退しています。
金からビットコインへの資金シフトという構造変化が進行している可能性があり、市場の主役交代シグナルとして注目されています。
ステーブルコイン市場の拡大と規制対応 − 各国で進む制度整備
ステーブルコイン市場がグローバルな規模で拡大しています。シティグループが2030年までに4兆ドル規模に達すると予測するステーブルコイン市場に向けて、各国で制度整備が加速しています。
国内では日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」が正式発行され、関連株が急騰しました。JPYCは日本円に1:1で連動したステーブルコインで、価格の安定を目指す仮想通貨として設計されています。JPYC株式会社が発行するこのステーブルコインは、日本市場における実用化の第一歩として大きな注目を集めています。
国際的にも重要な動きがあります。カナダ政府が11月4日の連邦予算でステーブルコイン規制導入を急いでいる背景には、米国のジーニアス法成立を受けた金融主権の維持と資本流出阻止の必要性があります。カナダは規制の空白を埋めることで、自国の金融システムを守ろうとしています。
一方、中国では警戒感が強まっています。中国人民銀行の潘功勝総裁がステーブルコインを世界的な金融安定への脅威と表明しました。この発言の背景には、米ドル建てステーブルコインの台頭と人民元国際化の競争があるとみられます。中国は自国の通貨主権を守るため、ステーブルコインに対して厳しい姿勢を維持しています。
実際の利用面でも拡大が見られます。ベネズエラでは戦争の新たな脅威、継続する経済制裁、通貨ボリバルの暴落に直面する中で、米ドル連動型ステーブルコインへの依存をさらに深める可能性があります。経済危機や政情不安定な地域では、ステーブルコインが法定通貨の代替手段として機能し始めています。
TISとAva Labsの提携によるAvaCloudベースのトークン発行プラットフォームは、ステーブルコインやセキュリティトークンに対応しており、金融機関や企業のアセットトークン化を支援します。このようなインフラ整備により、企業が独自のステーブルコインを発行する環境が整いつつあります。
コインベースと大手銀行シティの提携も、ステーブルコイン決済の実用化に向けた重要なステップです。24時間365日対応の決済機能により、従来の金融システムの制約を超えた新しい決済インフラが構築されようとしています。
ステーブルコインは投機的な暗号資産とは異なり、実用的な決済手段や価値保存手段として機能することが期待されています。2030年に向けて4兆ドル規模の市場が形成される見通しの中、各国の規制対応と実用化の進展が今後の焦点となります。
ETF市場の拡大と新たな資金流入 − ソラナ、ヘデラ、ライトコインが上場へ
暗号資産ETF市場に新たな展開が訪れています。ニューヨーク証券取引所(NYSE)は10月27日、4つの新たな暗号資産現物ETFの上場通知を掲載し、早ければ10月28日にも取引が開始されることが明らかになりました。注目すべきは、ソラナ(SOL)、ライトコイン(LTC)、ヘデラ(HBAR)を対象とした上場投資信託が登場する点です。
この動きは米国政府閉鎖中に予想外の形で進展しており、市場関係者を驚かせています。これまでビットコインとイーサリアムのETFが中心でしたが、アルトコインのETFが複数同時に上場することで、新たな仮想通貨ETFラッシュが到来する可能性があります。
資金流入の面でも明るい兆候が見られます。仮想通貨投資企業CoinSharesの報告によると、デジタル資産投資商品全体への先週の資金フローは約1,400億円の純流入となりました。特に注目すべきは、1週間前まで流出を主導していたビットコインが、先週9億3,100万ドルの流入を記録し、ほぼ損失を回復した点です。
この資金流入の背景には、米国のインフレ率が市場予想を下回ったことがあります。この経済指標を受けて、投資家心理が改善し、ビットコインETPが流出から流入へと転じました。予想外の経済指標が市場のセンチメントを大きく変化させたことが明確に示されています。
ETF市場の拡大は、機関投資家の参入を促進する効果があります。従来、暗号資産への投資はウォレットや取引所の口座開設など、技術的なハードルが存在しました。しかし、ETFという伝統的な金融商品の形態で暗号資産にアクセスできることで、より多くの機関投資家や個人投資家が参入しやすくなります。
ソラナ、ライトコイン、ヘデラという3つの主要アルトコインのETFが同時に上場することは、暗号資産市場の多様化を示しています。これまでビットコインとイーサリアムに集中していた機関投資家の資金が、他のブロックチェーンプロジェクトにも流入する可能性が高まっています。
今後の注目点は、これらの新規ETFがどれだけの資金を集めるかです。ビットコインETFが上場した際には大規模な資金流入が観測されましたが、アルトコインETFも同様のトレンドを生み出せるかが焦点となります。ETF市場の拡大は暗号資産の制度化を象徴する動きであり、2025年の市場構造を大きく変える可能性を秘めています。
ウォレット技術の進化 − メタマスクのマルチチェーン対応と新時代の到来
暗号資産ウォレット市場に大きな技術革新が訪れています。世界最大級の仮想通貨ウォレットであるメタマスクが10月28日、マルチチェーンアカウント機能を発表しました。この新機能により、1つのアカウントでイーサリアム、ソラナ、ビットコイン(近日対応予定)を管理可能になります。これまでEVM(イーサリアム仮想マシン)チェーンに特化していたメタマスクが、非EVMチェーンにも本格対応することで、ユーザーの利便性が飛躍的に向上します。
この発表と並行して、メタマスクがトークン請求に関連するとみられるドメインを正式に登録したことも明らかになりました。市場では巨大エアドロップの布石ではないかとの憶測が広がっており、独自トークン発行への期待も高まっています。メタマスクは世界中で数千万人規模のユーザーを抱えており、もし独自トークンが発行されれば、暗号資産市場に大きなインパクトを与える可能性があります。
ウォレット技術の進化は、単なる利便性向上にとどまりません。AIエージェントが仮想通貨ウォレットの利用形態を大きく変える可能性も浮上しています。特に取引や決済の分野での活用が想定されており、AIがユーザーに代わって最適な取引を実行したり、複雑な操作を自動化したりすることが期待されています。ただし、新たなリスクも存在しており、AIエージェントによるウォレット操作の安全性やセキュリティ面での課題が指摘されています。
セキュリティを重視したウォレットプロジェクトとしては、Vultisigが大手取引所クラーケン(Kraken)に上場し、注目を集めています。このプロジェクトは分散型のセキュリティモデルを採用しており、従来の中央集権的なウォレットとは異なるアプローチで資産管理の安全性を高めようとしています。
ウォレット市場の拡大は、暗号資産の実用化を加速させる重要な要素です。メタマスクのマルチチェーン対応により、ユーザーは複数のブロックチェーンを横断して資産を管理できるようになり、チェーン間の障壁が低下します。これは、異なるブロックチェーンエコシステムが相互に連携する「マルチチェーン時代」の本格的な到来を示唆しています。
今後の展開として、メタマスクの独自トークン発行の可能性が最大の焦点です。ドメイン登録という具体的な動きが確認されたことで、発行の現実味が増しています。もしトークンが発行されれば、既存のユーザーに対するエアドロップが実施される可能性が高く、数千万人規模の大規模なトークン配布となる可能性があります。
ウォレット技術の進化は、暗号資産のユーザビリティを根本から変える力を持っています。メタマスクのマルチチェーン対応は、その第一歩として歴史的な意義を持つ動きと言えるでしょう。
技術論争と規制の狭間 − レイヤー2の安全性とビットコイン開発の課題
ブロックチェーン技術の発展に伴い、技術的な論争と規制の課題が表面化しています。特に注目されているのが、イーサリアムのレイヤー2(L2)ソリューションの安全性をめぐる議論です。
ソラナの共同創業者であるヤコヴェンコ氏が、イーサリアムL2のセキュリティ継承に疑問を呈し、ヴィタリック・ブテリン氏らと公開論争に発展しました。ヤコヴェンコ氏は、マルチシグによる中央集権的リスクを指摘しており、478億ドルのTVL(総ロック価値)を抱えるL2の安全性が焦点となっています。L2ソリューションは、イーサリアムのスケーラビリティ問題を解決する重要な技術として普及が進んでいますが、その安全性について根本的な疑問が投げかけられた形です。
この論争は単なる技術的な議論にとどまらず、ブロックチェーンの分散性と中央集権性のバランスという本質的な問題を浮き彫りにしています。L2の多くは、運営チームが管理するマルチシグウォレットによって資金が管理されており、完全な分散化が実現されていないという指摘です。478億ドルという巨額の資金が、こうした中央集権的な要素を含むシステムで管理されていることへの懸念が高まっています。
ビットコインの開発現場でも重要な論争が起きています。新たなビットコイン改善提案(BIP)が提出され、トランザクションのフィルタリングに関する論争を解決する間、ビットコインに1年間のソフトフォークを実施するよう求めています。しかし、提案内の「法的脅威」という文言が物議を醸しており、支持者らから「ビットコインへの攻撃になる」との猛反発を受けています。
この提案をめぐる議論は、ビットコインのガバナンスの在り方という根本的な問題に触れています。ビットコインは中央管理者のいない分散型システムとして設計されていますが、プロトコルの変更をどのように決定し、誰がその権限を持つのかという問題は常に論争の対象となってきました。「法的脅威」という表現が、技術的な議論に法的な圧力を持ち込むものとして批判されているのです。
分散型取引所の分野でも問題が発生しています。分散型取引所dYdXは、先月の市場急落時に約8時間にわたって発生したチェーン停止に関する事後報告を発表しました。取引所は、影響を受けたトレーダーに対し、プロトコルの保険基金から最大46万2000ドルの補償を行う案を提示しています。この事例は、分散型システムであっても技術的な障害が発生し得ることを示しており、分散化とシステムの安定性のトレードオフという課題を浮き彫りにしています。
技術面では予想外の問題も発生しています。ハイパーリキッドのHYPEトークンが、競合する分散型取引所のライター(Lighter)で一時98ドルまで急騰しました。これは世界的な価格水準と大きく乖離しており、ボットのエラーが原因であることが判明しています。自動取引システムの普及に伴い、こうした技術的なエラーが市場に与える影響も無視できなくなっています。
これらの論争や問題は、ブロックチェーン技術が成熟期を迎える過程で避けられない課題です。技術的な安全性、分散性の確保、ガバナンスの在り方など、解決すべき問題は多岐にわたります。今後、これらの課題にどう対処するかが、ブロックチェーン技術の長期的な発展を左右することになるでしょう。
規制環境の変化と政治的動向 − 米国を中心とした暗号資産政策の転換点
暗号資産をめぐる規制環境と政治的動向が大きな転換点を迎えています。米国ではベセント財務長官が次期FRB議長候補を5人に絞り込んだことが報じられました。注目すべきは、仮想通貨に前向きなバウマン理事やウォーラー理事が含まれている点です。今秋後半にトランプ大統領に推薦を提出する予定であり、FRBのトップに暗号資産支持派が就任すれば、金融政策面でも暗号資産への理解が深まる可能性があります。
規制当局の人事も動いています。ホワイトハウスの仮想通貨・AI担当責任者デービッド・サックス氏が、セリグ氏をCFTC(商品先物取引委員会)委員長候補に指名しました。これは前任のブライアン・クインテンツ氏の指名撤回を受けたものですが、指導層の空白が続いている状況が懸念されています。暗号資産市場の急速な発展に対して、規制当局の体制整備が追いついていない現状が浮き彫りになっています。
政治的な論争も激化しています。米民主党のウォーレン議員らが、トランプ大統領によるバイナンス前CEO・CZ氏への恩赦を非難する決議案を起草しました。ウォーレン議員らはトランプ一族企業との癒着も疑っており、恩赦の正当性を問題視しています。この動きは、暗号資産政策が党派対立の焦点となっていることを示しており、規制の方向性が政治的な駆け引きの影響を受けやすい状況が続いています。
国際的にも重要な動きがあります。インドのマドラス高等裁判所が暗号資産を法的な「財産」と認める判決を下しました。この判断は暗号資産取引所WazirXがハッキング被害後の再建計画の一環として進めようとした、顧客資産の再配分を禁じるものです。この裁判は暗号資産の法的地位を明確化する歴史的な判断として評価されており、インドにおける暗号資産の権利保護が前進したことを意味します。
中国では逆に警戒感が強まっています。中国人民銀行の潘功勝総裁がステーブルコインを世界的な金融安定への脅威と表明しました。この発言の背景には、米ドル建てステーブルコインの台頭と人民元国際化の競争があるとみられます。中国は独自のデジタル人民元を推進する一方で、民間のステーブルコインに対しては厳しい姿勢を維持しています。
興味深い動きとして、アリババ傘下のフィンテック大手アント・グループが、香港で「Antcoin(アントコイン)」の商標を登録したことが明らかになりました。中国当局が仮想通貨への取り締まりを強化する中、同社がブロックチェーンを基盤とした金融事業への再進出を図っていることを示す動きとみられます。香港という特別行政区の地位を活用して、中国本土とは異なる規制環境で事業を展開する戦略が読み取れます。
カナダでも動きがあります。カナダ政府が11月4日の連邦予算でステーブルコイン規制導入を急いでいる背景には、米国のジーニアス法成立を受けた金融主権の維持と資本流出阻止の必要性があります。カナダは隣国である米国の規制動向に敏感に反応しており、規制の空白が生じることで自国の金融システムが不利になることを避けようとしています。
これらの動向は、暗号資産規制がグローバルな競争の焦点となっていることを示しています。各国は自国の金融システムを守りつつ、イノベーションを促進するバランスを模索しており、その過程で規制の国際的な標準化が重要な課題として浮上しています。
プロジェクト開発と資金調達 − 大型案件が続々と始動
暗号資産プロジェクトの開発と資金調達において、大型案件が相次いで始動しています。最も注目されているのは、イーサリアム共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏が出資するブロックチェーン「MegaETH」です。MegaETHは独自トークンMEGAのパブリックセールを開始し、開始から数分で上限額に到達しました。短時間で約76億円を調達したことは、投資家の関心の高さを示しており、仮想通貨領域で大きな注目を集めています。
MegaETHはイーサリアムの大型レイヤー2プロジェクトとして位置づけられており、高速なトランザクション処理を実現することを目指しています。ブテリン氏という著名人が出資していることに加えて、技術的な革新性が評価され、プロジェクト開始前から期待が高まっていました。パブリックセールの成功は、L2ソリューションへの需要が依然として旺盛であることを示しています。
ソラナエコシステムでも注目すべきプロジェクトが登場しています。ハードウェアアクセラレーションの採用により毎秒30万件以上のトランザクション処理を目指すSVMレイヤー1「Solayer」が、コミュニティでAMA(Ask Me Anything)を実施しました。Solayerは「Solanaのその先」を目指すプロジェクトとして、より速く、より効率的なブロックチェーンインフラの構築を目標としています。毎秒30万件という処理能力は、現在のソラナを大きく上回る性能であり、次世代ブロックチェーンの可能性を示しています。
新興プロジェクトとしては、新しい仮想通貨$PEPENODEが3億円の調達間近という状況にあります。このプロジェクトはマイニング業界に新風を吹き込むことを目指しており、ミームコイン市場の変動が激しい2025年において、独自のポジションを確立しようとしています。ミームコインは投機性が高い一方で、コミュニティの支持を集めることで急速に成長する可能性を秘めています。
Web3プラットフォームの分野では、月間100万人ユーザーの人気ゲーム基盤から進化した「Sakura Nexus」が、10月27日から31日までクローズドテストを実施しています。既存のゲームプラットフォームからWeb3への進化という道筋は、実用的なユーザーベースを持つプロジェクトがブロックチェーン技術を取り入れるという新しいトレンドを示しています。月間100万人というユーザー規模は、Web3プロジェクトとしては非常に大きく、実用化の面で先行している事例と言えます。
NFT・メタバース分野では、ユガ・ラボがメタバース「アザーサイド」を11月12日に正式リリースすると発表しました。同社はアマゾン・ゲーミングと提携し、共同ブランドのキャラクター「ボクシマス」を10月30日から販売予定です。大手テック企業であるアマゾンとの提携は、NFT市場が主流のエンターテインメント業界に受け入れられつつあることを示す重要なシグナルです。
資金調達環境としては、イーサリアムのエコシステムや有名創設者が関与するプロジェクトに資金が集中する傾向が見られます。MegaETHの事例が示すように、ブテリン氏のような著名人の支持があるプロジェクトは、短時間で大規模な資金調達を実現できる環境にあります。
一方で、実用性やユーザー基盤を持つプロジェクトも注目されています。Sakura Nexusのように、既存のユーザーを持つプラットフォームがWeb3に移行する動きは、暗号資産の実用化を加速させる重要なトレンドです。単なる投機対象ではなく、実際に使われるプロダクトとしての暗号資産プロジェクトが増えることで、市場全体の成熟度が高まることが期待されます。
その他の重要トピックス − 市場を動かす多様な要因
暗号資産市場を取り巻く多様な要因が、価格形成や投資家心理に影響を与えています。ここでは、主要テーマには分類されないものの、重要性の高いトピックをまとめます。
まず注目すべきは、ビットコインの一般投資家への「手の届かなさ」という問題です。ビットコインは今や一般投資家にとって手の届かない存在になりつつあり、現在の強気相場が伝統的な4年周期を超えて持続できるのかという疑問が高まっています。価格が11万ドルを超える水準で推移する中、少額投資家の参入障壁が高まっていることが懸念されています。これは市場の成熟を示す一方で、新規参加者の減少が強気サイクルの終焉を早める可能性も指摘されています。
企業の上場動向では、暗号資産ステーキング企業のKR1がロンドン証券取引所(LSE)への上場を計画していることが報じられました。これはイギリスの暗号資産業界に対する見方が好転している兆候とされています。欧州では規制環境の整備が進んでおり、暗号資産関連企業の上場が増えることで、伝統的な金融市場との統合が進む可能性があります。
投資動向の変化も見られます。仮想通貨 100倍銘柄を専門家が厳選するという企画が注目を集めており、過去のデータから秋(10〜11月)は強気相場が訪れやすいとされています。不安定だった相場が落ち着きを見せる中、投資家の関心が高リターン銘柄に向かっている状況が確認できます。ただし、こうした高リスク・高リターンの投資には十分な注意が必要です。
XRP関連では、機関投資家の参入が追い風となっています。Ripple社およびSBIホールディングスなどの支援を受けて2025年に設立されたエバーノース(Evernorth Holdings Inc.)は、XRPを主軸としたトレジャリー事業を展開しています。この動きは、XRPが機関投資家の投資対象として認知され始めていることを示しており、価格上昇の材料として期待されています。
暗号資産の法的地位に関する判例も重要です。インドのマドラス高等裁判所が暗号資産を法的な「財産」と認める判決を下したことは、暗号資産の権利保護が前進したことを意味します。これまで法的な位置づけが曖昧だった暗号資産が、財産権として保護される対象となることで、投資家の権利保護が強化されます。
セキュリティ面では、ウォレットプロジェクトVultisigが大手取引所クラーケンに上場し、セキュリティを重視したウォレットへの需要が高まっていることが確認されました。暗号資産のハッキング被害が後を絶たない中、安全性の高いウォレットソリューションが市場で評価されています。
相場の短期的な動きとしては、FRBの金利発表を前にBTC、DOGE、ETHが一時下落し、トレーダーが慎重な姿勢を示しました。FOMC会合が短期的な方向性を決定づける最大の注目点となっており、市場参加者は利下げ幅や今後の金融政策の方向性を見極めようとしています。市場は25ベーシスポイントの利下げを大方織り込んでいるとみられますが、FRBの声明内容次第では相場が大きく動く可能性があります。
国内市場では、日本初の円建てステーブルコインJPYC発行で関連株が急騰したことが大きなニュースとなりました。JPYCは日本円に1:1で連動したステーブルコインで、国内での実用化が期待されています。関連銘柄の株価急騰は、国内投資家のステーブルコインへの期待の高さを示しています。
これらの多様なトピックは、暗号資産市場が単一の要因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って動いていることを示しています。技術開発、規制動向、機関投資家の参入、法的地位の確立など、多面的な発展が同時進行しており、市場の成熟度が高まっていることが確認できます。
市場インフラの整備と実用化の加速 − 制度化が進む暗号資産エコシステム
暗号資産市場のインフラ整備と実用化が、複数の領域で同時進行しています。これまで個別に発展してきた要素が統合され、包括的なエコシステムが形成されつつある状況です。
まず注目すべきは、メタマスクのマルチチェーン対応です。10月28日に発表されたこの機能により、1つのアカウントでイーサリアム、ソラナ、ビットコイン(近日対応)を管理可能になります。これは単なる技術的な進歩にとどまらず、ユーザーエクスペリエンスの根本的な改善を意味します。従来、異なるブロックチェーンを利用するには、それぞれ専用のウォレットが必要でしたが、この障壁が取り除かれることで、マルチチェーン時代の本格的な到来が現実のものとなります。
企業向けのインフラも急速に整備されています。IBMが発表した「Digital Asset Haven」は、機関投資家向けのデジタル資産管理プラットフォームとして、マルチチェーン対応のウォレット管理、柔軟な鍵管理モデル、機密コンピューティングによる高度なセキュリティを提供します。銀行や政府、大企業が安心して暗号資産を扱える環境が整いつつあり、企業のデジタル資産採用を加速させる基盤が構築されています。
国内ではTISとAva Labsの提携によるAvaCloudベースのトークン発行プラットフォームが提供開始されました。このプラットフォームはステーブルコインやセキュリティトークンに対応しており、金融機関や企業のアセットトークン化を支援します。前日に日本初の円建てステーブルコインJPYCが正式発行されたことと相まって、国内での暗号資産インフラ整備が急速に進展していることが明確になりました。
決済インフラの面でも重要な進展があります。シティグループがコインベースと提携し、ステーブルコイン決済の導入を検討しています。シティは2030年までにステーブルコイン市場が4兆ドル規模に達すると予測しており、24時間365日対応の決済機能の実現を目指しています。これは従来の金融システムでは不可能だった即時決済や国際送金の効率化を可能にし、金融インフラの根本的な変革をもたらす可能性があります。
コインベースは資産運用大手のアポロとも戦略的提携を発表し、ステーブルコイン活用の信用投資戦略を共同開発する計画です。これにより、ステーブルコインが単なる決済手段にとどまらず、投資商品としても活用される道が開かれます。
取引インフラの面では、ソラナ、ヘデラ、ライトコインの現物ETFがニューヨーク証券取引所に上場する見込みとなっており、早ければ10月28日にも取引が開始されます。これまでビットコインとイーサリアムのETFが中心でしたが、アルトコインのETFが複数同時に上場することで、投資家の選択肢が大きく広がります。機関投資家にとって、規制に準拠した形で多様な暗号資産にアクセスできる環境が整いつつあります。
法的インフラの整備も進んでいます。インドのマドラス高等裁判所が暗号資産を法的な「財産」と認める判決を下したことは、暗号資産の権利保護における重要な前進です。これまで法的な位置づけが曖昧だった暗号資産が、財産権として保護される対象となることで、投資家の権利が明確化されます。
規制面では、カナダ政府が11月4日の連邦予算でステーブルコイン規制導入を急いでいることが報じられました。米国のジーニアス法成立を受けて、金融主権の維持と資本流出阻止のため、規制の空白を埋める必要性に迫られています。各国が独自の規制フレームワークを構築する動きは、グローバルな規制標準の形成に向けた重要なステップとなります。
セキュリティインフラの面では、Vultisigのような分散型セキュリティモデルを採用したウォレットプロジェクトが大手取引所クラーケンに上場し、注目を集めています。暗号資産のハッキング被害が後を絶たない中、安全性の高いインフラへの需要が高まっており、こうしたプロジェクトが市場で評価されています。
これらの動きを総合すると、暗号資産市場が「実験的段階」から「実用的段階」へと移行していることが明確です。ウォレット、決済、取引、保管、規制など、包括的なエコシステムが形成されつつあり、企業や機関投資家が安心して参入できる環境が整いつつあります。
今後の焦点は、これらのインフラがどれだけ実際に利用されるかです。インフラの整備は進んでいますが、実用化の段階ではまだ課題も残されています。しかし、2025年が暗号資産の制度化元年として記憶される可能性は高く、今後数年間で市場構造が大きく変化することが予想されます。
今日のまとめ
2025年10月28日は、暗号資産市場の歴史において重要なマイルストーンとなる日として記録されるでしょう。この日に報じられた一連のニュースは、暗号資産が投機的な資産クラスから、実用的な金融インフラへと進化する過程を鮮明に映し出しています。
シティグループやIBMといった世界的企業の本格参入は、伝統金融とブロックチェーン技術の融合が現実のものとなりつつあることを示しています。2030年までに4兆ドル規模に達すると予測されるステーブルコイン市場を見据えた動きは、今後の金融システムの在り方を根本から変える可能性を秘めています。
メタプラネットの750億円規模の自社株買いやストラテジーの購入ペース減速など、企業のビットコイン戦略は成熟期を迎えており、市場環境や株価評価に応じた柔軟な資本配分が求められる時代になっています。一方で、トランプ一族のアメリカン・ビットコインやトム・リー氏のビットマインなど、積極的な買い増しを続ける企業も存在し、戦略の多様化が進んでいます。
市場環境も大きな転換点にあります。金価格の急落とビットコインの堅調な推移は、安全資産としての主役交代を示唆しており、米中貿易協議の進展やFOMCでの利下げ期待が相場を後押ししています。約1,400億円の資金純流入が確認されたことは、投資家心理の改善を示す明確なシグナルです。
ソラナ、ヘデラ、ライトコインのETF上場は、暗号資産投資の選択肢を大きく広げ、機関投資家の参入をさらに促進するでしょう。ビットコインとイーサリアムに続く「第二世代」のETFラッシュが到来することで、市場の多様化と成熟化が加速します。
国内市場でも日本初の円建てステーブルコインJPYCの正式発行やTISとAva Labsによるトークン発行プラットフォームの提供開始など、インフラ整備が急速に進んでいます。日本がグローバルな暗号資産市場において重要な位置を占める可能性が高まっています。
技術面では、メタマスクのマルチチェーン対応やIBMのデジタル資産管理プラットフォームなど、ユーザビリティとセキュリティの両面で大きな進歩が見られます。AIエージェントの活用という新しい可能性も浮上しており、ウォレット技術の進化は今後も続くでしょう。
規制環境も変化しています。インドでの「財産」認定判決やカナダのステーブルコイン規制導入、米国での仮想通貨支持派のFRB議長候補選出など、各国が独自のアプローチで暗号資産との向き合い方を模索しています。グローバルな規制標準の形成に向けた動きは、今後の市場発展の鍵を握っています。
一方で課題も残されています。ソラナ共同創設者によるL2の安全性への疑問提起やビットコインのソフトフォーク提案をめぐる論争は、技術的な成熟度とガバナンスの在り方という根本的な問題を浮き彫りにしています。分散型取引所dYdXのチェーン停止やハイパーリキッドでのボットエラーなど、インフラの安定性にはまだ改善の余地があります。
MegaETHの76億円調達やSolayerの毎秒30万件処理を目指す挑戦など、技術革新も続いています。ユガ・ラボとアマゾンの提携は、NFT・メタバース市場が主流のエンターテインメント業界に受け入れられつつあることを示しています。
今後の焦点は、これらの動きが実際の経済活動にどれだけ影響を与えるかです。インフラは整いつつありますが、実用化のフェーズではまだ多くの課題が残されています。しかし、2025年10月28日という日は、暗号資産市場が新たな段階に入ったことを示す象徴的な日として、後世振り返られることになるでしょう。
暗号資産の制度化と実用化は、もはや「いつか来る未来」ではなく「すでに始まっている現実」です。今後数か月から数年の間に、この流れはさらに加速し、金融システム全体の構造を変革する力となることが予想されます。投資家、企業、規制当局、そして一般のユーザーにとって、暗号資産はもはや無視できない存在となっており、その動向を注視し続けることが重要です。
2025年の秋は、暗号資産市場にとって真の転換点となる季節として、歴史に刻まれることになるでしょう。
