2025年11月19日、米SEC(証券取引委員会)が2026年度の検査優先事項から暗号資産監視を除外したことが明らかになりました。トランプ政権下で規制姿勢が執行重視から対話重視に転換し、コインベース(Coinbase)やリップル(Ripple)との訴訟解決など、業界への軟化姿勢が鮮明になっています。
市場では、ビットコインが一時9万ドル(約1388万円)を割り込むも反発。ブラックロック(BlackRock)のビットコインETF「IBIT」から過去最大12億6,000万ドル(約1,942億円)が流出し、1日あたりでは5億2,320万ドル(約807億円)の純流出を記録しました。
一方、クラーケン(Kraken)が8億ドル(約1,232億円)の資金調達を完了し、企業価値が200億ドル(約3兆800億円)に到達。ニューハンプシャー州が全米初のビットコイン担保地方債を承認し、1億ドル(約154億円)規模の債券で140兆ドル規模の世界債券市場への道を開く可能性が出ました。
ストラテジー(Strategy)のマイケル・セイラー会長は、機関投資家の参入によりビットコインのボラティリティが2020年の約80%から現在50%まで低下したと発言。今後はS&P500の1.5倍程度に収束すると予測しています。
本稿では、SEC規制緩和の歴史的転換、市場動向、クラーケンの資金調達、ビットコイン担保債券、セイラー会長の分析について詳しく解説します。
米SEC、2026年度検査で暗号資産監視削除 ── 規制姿勢が執行重視から対話重視に歴史的転換
米SECが2026年度の検査優先事項から暗号資産監視を除外しました。これはトランプ政権下での規制姿勢の歴史的転換を象徴する動きです。
SECはこれまで、暗号資産を検査優先項目に含め、厳格な執行姿勢を取ってきました。しかし、2026年度の優先事項リストから暗号資産が削除されたことで、業界への軟化姿勢が鮮明になりました。
規制姿勢転換の具体的な動きは以下の通りです:
- コインベースとの訴訟解決への動き – SECはコインベースとの長年にわたる訴訟について、和解に向けた対話を進めているとされます。
- リップルとの訴訟の進展 – リップルとSECの訴訟も、最終的な和解に向けた段階に入っています。
- 執行重視から対話重視へ – 訴訟による規制から、業界との対話を通じた規制枠組みの構築へと転換しています。
- トランプ政権の影響 – トランプ政権は暗号資産に友好的な姿勢を示しており、SECの人事刷新により規制アプローチが大きく変化しています。
この規制緩和は、米国の暗号資産市場にとって極めて重要な意味を持ちます。SECの厳格な執行姿勢が、多くの暗号資産企業の米国からの撤退や、イノベーションの停滞を招いていました。規制緩和により、企業が米国市場に戻り、新たな投資が活性化する可能性があります。
米上院銀行委員会のティム・スコット委員長は、暗号資産の市場構造法案を来月中に修正し、来年初めまでにトランプ大統領の署名を得たいとする考えを示しました。SECの規制緩和と並行して、立法府でも暗号資産に関する明確な規制枠組みの構築が進んでいます。
コインベースは予測市場プラットフォームを準備しているとみられ、開発中サイトのスクリーンショットが流出しました。規制緩和を見据えた新サービス展開の動きが加速しています。
ブラックロックBTC ETF過去最大12億6,000万ドル流出 ── 市場は反発できるか、12月FOMC前に期待二分
ブラックロックのビットコインETF「IBIT」から過去最大12億6,000万ドル(約1,942億円)が流出しました。1日あたりでは5億2,320万ドル(約807億円)の純流出を記録し、過去最高となりました。
ビットコインとイーサリアムの現物ETFは、資金が純流出する日が継続しています。この点について、ソラナやXRPなどのアルトコインETFに資金が循環している可能性が指摘されています。アルトコイン現物ETFへの資金循環が起きている可能性があり、投資家の資金配分が変化しています。
ビットコインは一時9万ドル(約1388万円)を割り込みましたが、米労働市場の減速を示すデータによって12月の利下げ観測が若干ながら浮上し、終値ベースでは節目の水準を維持しました。bitbankアナリストによると、今週最大のイベント(12月10日のFOMC)でどうなるか注目されています。
12月10日に予定される米連邦準備制度理事会(FRB)の金利決定を前に、市場の期待は真っ二つに割れています。金融政策の方向性に対する市場の期待は二分しており、インフレ懸念と景気減速の兆候がぶつかっています。
ビットコインオプション市場では、昨年までの超強気な賭けから一転、完全に180度の方向転換を遂げ、弱気姿勢に転じました。昨年末以降、トレーダーらはデリビット(Deribit)で14万ドル(約2,158万円)のコールオプションに大量の資金を投じていましたが、現在は8万5,000ドル(約1,310万円)のプットオプションに資金が集まっています。
一方、スタンダードチャータード(Standard Chartered)のデジタル資産リサーチ責任者ジェフリー・ケンドリック氏は、ビットコインの下落は「終了」し、年末にかけての反発が基本シナリオとしています。短期的な弱気見通しにもかかわらず、クジラ投資家が買い増しを加速しており、ウォール街のアナリストは2025年末までにビットコインが過去最高値を更新すると予測しています。
ビットコインのチャートは75,000ドル(約1,156万円)台の下値を示していますが、アナリストは2025年末までに40%の反発を予測しています。
ビットコイン急落で「最強の11月」に異変が起きています。アナリストらは、過去に「最も強い月」とされてきた11月が今年もその評価に値するのかどうか疑問を呈しています。ビットコインは過去7日間で10%下落し、一時は9万ドルを割り込みました。アナリストは「過去とは条件が違う」と指摘しています。
クラーケン8億ドル調達、企業価値200億ドル到達 ── シタデルから戦略投資、IPO前に資金基盤強化
米国の暗号資産取引所クラーケンは19日、8億ドル(約1,232億円)の資金調達を完了し、同社の企業価値が200億ドル(約3兆800億円)に達したと発表しました。今回調達した資金は今後のグローバル展開を支える目的で使用されるとしています。
内訳として、シタデル・セキュリティーズ(Citadel Securities)から2億ドル(約308億円)の戦略的投資を確保したことが報じられました。9月の6億ドル(約924億円)調達に続き、IPO(新規株式公開)前に資金基盤を強化しています。
クラーケンの共同CEOは以前、米国での株式公開について急ぐ姿勢を見せていないと述べていましたが、今回の大規模資金調達はIPO準備の一環とみられます。政策環境の改善や市場の回復を受けて、適切なタイミングでの上場を目指しているとされます。
企業価値200億ドルは、暗号資産取引所としては極めて高い評価です。コインベースの時価総額が約500億ドル(約7兆7,000億円)前後で推移していることを考えると、クラーケンは業界第2位の規模を誇ります。
クラーケンの資金調達の背景には、以下の要因があります:
- グローバル展開の加速 – 欧州やアジア市場でのシェア拡大を目指しており、各地域での規制対応やインフラ投資が必要。
- 規制環境の改善 – トランプ政権下での規制緩和により、米国市場での事業拡大の機会が増加。
- 競合との差別化 – コインベースやバイナンス(Binance)との競争が激化する中、差別化されたサービス提供に向けた投資が必要。
- IPOへの準備 – 公開市場での資金調達に向けて、財務基盤とガバナンス体制を強化。
シタデル・セキュリティーズからの戦略的投資は、伝統的金融と暗号資産の融合を象徴しています。シタデルは世界最大級のマーケットメイカーであり、同社の参入は暗号資産市場の流動性向上に寄与する可能性があります。
ニューハンプシャー州、全米初のビットコイン担保地方債承認 ── 1億ドル規模、140兆ドル債券市場への道開く
ニューハンプシャー州が全米初のビットコイン担保地方債を承認しました。1億ドル(約154億円)規模の債券で、デジタル資産が140兆ドル(約2京1,560兆円)規模の世界債券市場に参入する道を開く可能性が出ました。
ビットコイン担保地方債とは、ビットコインを担保として発行される地方債券です。従来の地方債は、税収や特定のプロジェクトからの収益を返済原資としていましたが、ビットコイン担保地方債では、ビットコインの価値が担保となります。
この仕組みの主な特徴は以下の通りです:
- ビットコインを担保として債券を発行 – 州がビットコインを保有し、その価値を担保として債券を発行。
- 利回りの提供 – 投資家は債券を購入することで、定期的な利息を受け取る。
- ビットコイン価格変動リスクの管理 – 価格下落時の追加担保や、価格上昇時の恩恵分配など、リスク管理の仕組みが必要。
- 債券市場への参入 – 暗号資産が伝統的な債券市場に参入する先駆けとなる。
ニューハンプシャー州は、米国で最も暗号資産に友好的な州の一つです。同州は「自由か死か(Live Free or Die)」をモットーとし、規制を最小限に抑える政策を取っています。ビットコイン担保地方債の承認は、この方針の延長線上にあります。
この動きは、他の州や自治体にも影響を与える可能性があります。ビットコイン担保地方債が成功すれば、他の州も同様の取り組みを検討する可能性があります。140兆ドル規模の世界債券市場に、暗号資産が本格的に参入する転機となるかもしれません。
セイラー会長「BTCボラティリティ低下」 ── 2020年80%→現在50%、S&P500の1.5倍に収束予測
ストラテジーのマイケル・セイラー会長がフォックス・ビジネス(Fox Business)で、機関投資家の参入によりビットコインのボラティリティが大幅に低下していると発言しました。2020年の約80%から現在50%まで縮小し、今後はS&P500の1.5倍程度に収束すると予測しています。
セイラー会長は、ウォール街の参入によってビットコインの価格動向やボラティリティが悪化したのではないかという懸念を退けました。「ビットコインのボラティリティは低下している」と強調し、機関投資家の参入が市場を安定化させていると主張しています。
ボラティリティとは、価格変動の大きさを示す指標です。ボラティリティが高いほど、価格が大きく変動し、リスクも高くなります。ビットコインは従来、極めてボラティリティが高い資産として知られていました。
セイラー会長の分析によると:
- 2020年時点:約80%のボラティリティ – ビットコインは1年間で価格が2倍以上になったり、半分以下になったりする極めて不安定な資産でした。
- 現在:約50%のボラティリティ – 機関投資家の参入により、価格変動が緩やかになっています。
- 将来予測:S&P500の1.5倍程度に収束 – S&P500のボラティリティは年間約15〜20%程度であり、その1.5倍となると22.5〜30%程度。ビットコインが成熟した資産クラスとして、株式市場と同程度のボラティリティに収束する可能性があります。
この分析は、ビットコインが投機的資産から成熟した投資資産へと移行しつつあることを示唆しています。機関投資家の参入により、市場の流動性が向上し、大口取引による価格への影響が緩和されています。
ARKインベスト(ARK Invest)のキャシー・ウッド氏も、コインベースとサークル(Circle)株を計720万ドル(約11億円)購入し、ステーブルコイン市場の成長を見据えて暗号資産関連株への投資を拡大しています。機関投資家の継続的な参入が、市場の安定化に寄与しています。
その他の重要動向 ── 米通貨監督庁の銀行承認、日本の投資信託検討、テザーのLedn投資、ビットフューリーAI転換
米財務省通貨監督庁(OCC)が国法銀行によるブロックチェーンネットワーク手数料支払いのための暗号資産保有を正式承認しました。トランプ政権下で暗号資産に対する規制姿勢が転換しています。銀行がガス代支払い用に暗号資産を保有できることで、ブロックチェーン技術を活用した金融サービスの提供が容易になります。
資産運用大手6社が、日本での暗号資産投資信託の開発を検討していることがわかりました。米国でビットコインの現物ETFが認可されたこともあり、日本でも暗号資産投資信託の誕生に期待する声は多い状況です。日経が報じました。
GMOトラスト(GMO-Z.comトラスト・カンパニー)がJapan Smart Chain(JSC)と提携し、日本法準拠ステーブルコイン発行を検討しています。日本向けレイヤー1ブロックチェーンでの取り組みです。
ステーブルコイン大手テザー(Tether)がビットコイン担保融資企業Ledn(レドン)に戦略的投資を実施しました。Lednは設立以来28億ドル(約4,312億円)超の融資を実行し、2025年だけで10億ドル(約1,540億円)超と見込まれています。暗号資産担保ローン分野への機関投資家の関心拡大とウォール街の参入加速と重なっています。
サークルがブロックチェーン間でUSDC担保型ステーブルコインを展開可能にする相互運用インフラ「xリザーブ(xReserve)」を発表しました。異なるブロックチェーン間でのステーブルコイン展開を容易にする仕組みです。
コインベースで開始されたモナド(Monad)のトークンセールは、開始23分で64.5億円を調達したものの、その後失速しました。高いFDV(完全希薄化後時価総額)評価額やVC(ベンチャーキャピタル)比率の高さが投資家の慎重姿勢を招いたとみられます。
ビットコインマイニング企業のビットフューリー(Bitfury)が、マイニング事業から転換し、人工知能(AI)や暗号技術など新興テクノロジーに特化した投資会社へと移行する方針を発表しました。ビットコイン発行が95%完了(1,995万枚/2,100万枚)し、残る約105万枚は今後115年という長い歳月をかけてマイニングされることから、マイニング業者がAIへ殺到する動きが出ています。
マーシャル諸島がデジタルウォレットを用いたユニバーサルベーシックインカム(UBI)制度を開始しました。「デジタル主権債」を利用したUBI制度で、IMF(国際通貨基金)が同国に対し「未検証」のデジタル資産の使用を警告してから2カ月後のことです。
エルサルバドルが1億ドル(約154億円)規模のビットコイン取得を行い、IMFプログラムへの疑問が再燃しています。価格下落とIMFからの圧力の中での追加購入です。
ウィンクルボス兄弟率いるサイファーパンク(Cypherpunk)が29,869 ZEC(約28億円相当)を追加購入し、保有総額は233,644 ZECとなり、総供給量の1.43%を保有しています。
ブラジル政府が暗号資産を利用したクロスボーダー決済への課税を検討しています。中央銀行は2026年2月から新規制を施行し、ステーブルコインを含む国際送金を外為取引として扱う方針ですが、税収漏れ対策として金融取引税(IOF)の対象とする案が浮上しています。
ソラナ価格は130ドル(約2万10円)付近で底打ちの可能性が浮上し、250ドル(約3万8500円)への回復シナリオが浮上しています。週足チャートは底を形成した可能性を示しています。
イーサリアム財団が複数のレイヤー2(L2)を単一チェーンのように操作できる相互運用レイヤー(EIL)の構想を解説しました。現在開発中のEILへの参加を呼びかけています。
クラウドフレア(Cloudflare)の障害が複数の暗号資産関連サイトとソーシャルメディアに影響を与えました。コインベースやBlockchain.comなどのウェブサイト、そしてソーシャルメディアプラットフォームにアクセスできないという報告が多数発生しました。
おわりに
2025年11月19日は、米SECが2026年度検査で暗号資産監視を削除したという歴史的な転換点となりました。トランプ政権下での規制姿勢の変化が明確になり、執行重視から対話重視へと大きく舵を切りました。コインベースやリップルとの訴訟解決に向けた動き、米上院での市場構造法案の進展は、米国の暗号資産市場が新たな段階に入ったことを示しています。
市場では、ブラックロックのビットコインETFから過去最大12億6,000万ドル(約1,942億円)が流出する一方、アルトコインETFへの資金循環が指摘されています。ビットコインは9万ドル(約1388万円)割れから反発し、12月FOMCを前に期待が二分しています。スタンダードチャータードの「下落終了」予測とビットコインオプションの弱気転換は、市場の見方が分かれていることを示しています。
クラーケンの8億ドル(約1,232億円)調達と企業価値200億ドル(約3兆800億円)到達は、IPO準備が本格化していることを示唆しています。シタデル・セキュリティーズからの戦略的投資は、伝統的金融と暗号資産の融合を象徴しています。
ニューハンプシャー州の全米初ビットコイン担保地方債承認は、暗号資産が140兆ドル(約2京1,560兆円)規模の世界債券市場に参入する道を開く可能性があります。1億ドル(約154億円)規模の債券が成功すれば、他の州や自治体も同様の取り組みを検討する可能性があり、暗号資産の実用化が新たな段階に入ります。
セイラー会長のビットコインボラティリティ分析は、機関投資家の参入が市場を安定化させていることを示しています。2020年の約80%から現在50%まで低下し、今後はS&P500の1.5倍程度に収束するという予測は、ビットコインが投機的資産から成熟した投資資産へと移行しつつあることを示唆しています。
米通貨監督庁の銀行への暗号資産保有承認、日本での暗号資産投資信託検討、テザーのLedn投資、ビットフューリーのAI転換は、暗号資産エコシステムが多様化・成熟化していることを示しています。規制緩和、インフラ整備、新サービス展開が同時に進行しています。
SEC規制緩和とクラーケンのIPO準備は、暗号資産市場が次のステージへ進むことを示しています。市場の短期的な変動にとらわれず、規制環境の改善、機関投資家の継続的な参入、インフラの成熟という構造的な変化を見極めることが重要です。
暗号資産投資には価格変動リスク、規制リスク、技術リスク、流動性リスクなど様々なリスクが伴います。ETFからの大規模な資金流出や市場の期待が二分している状況は、投資判断の難しさを示しています。規制環境の変化を注視しながら、長期的な視点を持ち続けることが重要です。投資判断は自己責任で行い、余裕資金の範囲内で慎重に検討してください。市場の構造的な変化を冷静に見守りましょう。
